林業試験場 Forestry Research Institute



2000年3月31日、有珠山が23年ぶりに噴火しました。ここでは、前回の噴火時に当試験場で行った調査研究の概要を紹介します。
(北海道林業試験場研究報告 第37号/2000.3 11-25p 掲載記事)
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1977年有珠山噴火による降灰が森林に及ぼした影響(2)
−樹木の肥大成長と幹の形態−

林業試験場 寺澤和彦・梅木 清・八坂通泰
要旨
 1977年有珠山噴火にともなう降灰によって被害を受けたトドマツおよびカラマツの人工林5カ所と広葉樹二次林1カ所において、噴火前から噴火後21年目までの樹木の肥大成長経過を年輪解析によって明らかにするとともに、降灰の影響とみられる幹の異常形態を調査した。
 噴火当年の幹の肥大成長は、トドマツとカラマツではそれより前の期間の成長と比べて差がみとめられなかったが、広葉樹二次林のミズナラ、オニグルミ、キハダではそれより前5年間の成長に比べて22〜29%低下した。噴火翌年の1978年における肥大成長は、カラマツと広葉樹3種で著しく低下した。この年の年輪幅は、カラマツでは1977年以前の4〜5年間の平均年輪幅の26〜38%、広葉樹3種では22〜48%であった。カラマツの肥大成長は噴火後3年間にわたって低いままで推移した後、1981年以降に回復する傾向を示した。広葉樹3種の回復過程には樹種による違いがみられ、ミズナラでは噴火3年後まで、オニグルミでは噴火8年後まで、キハダでは噴火2年後まで低い成長で推移した。トドマツでは、噴火翌年およびそれ以降の期間についても肥大成長の低下はみとめられなかった。
 東関内A調査地のトドマツとカラマツおよび泉調査地におけるミズナラでは、噴火から数年以上経過してから、噴火以前に比べて肥大成長が良好になる時期がみとめられた。年輪幅指数で0.10〜0.75の良好な成長を示す時期は8〜14年間にわたり、噴火から15年以上経った1990年代の前半まで継続した。
 火山噴出物の降下の影響とみられる幹の異常形態は、噴火当時に9年生であった月浦調査地のカラマツで最も顕著にみられ、全体の90%の個体では幹が約4mの高さで2〜5本に分岐して多幹となっていた。噴火当時29年生であった大平調査地のカラマツでは、小さな胸高直径階に属する個体において梢端部に複梢がみられ、これらの個体ではそれ以上の高さでの樹高成長が著しく阻害されているのが観察された。噴火時に20年生および12年生であった東関内Aおよび東関内Bのトドマツ林では、噴火から22年を経過した現在、噴出物の降下による幹被害の痕跡はきわめて軽微であった。
はじめに
 北海道の南西部に位置する有珠山は1977年8月7〜13日に大規模な噴火を繰り返し,主に北西および南東方向に多量の噴出物を降下・堆積させた(北海道農業試験場・北海道立中央農業試験場 1978)。噴出物の堆積厚は,噴火口付近では100cm以上,降灰主軸上で噴火口から2〜3km以内の地域では30cm以上,同じく南東方向約7km以内,北西方向約9km以内の地域では10cm以上に達した(北海道農業試験場・北海道立中央農業試験場 1978)。この噴火に伴う火山噴出物の降下・堆積は周辺の森林に大きな被害を与え,被害森林面積は国有林で5,300ha,民有林で2,853haと報告されている(函館営林支局 1978)。森林被害の実態は,噴火直後に各種の機関によって行われた調査によって明らかにされている(豊岡ほか 1978,森田ほか 1978,函館営林局計画課 1978,林業試験場 1979)。これらの噴火直後の被害実態把握および調査結果に基づくその後の被害の推移予測は,被害林分の復旧対策を立案する上できわめて重要であったことはいうまでもない。噴火後3年までの被害林分の推移に関するいくつかの報告(藤本ほか 1980,豊岡ほか 1981,津々美 1981)も,被害推移予測の検証や降灰被害からの回復過程に関する知見の集積という意味できわめて貴重な研究成果といえるだろう。しかし,樹木の成長や形態に及ぼす火山噴出物の降下・堆積の影響は,10年を単位とするようなタイムスケールでの調査で明らかにされる場合が多い(Eggler 1967, Segura et al. 1995)。したがって,1977年有珠山噴火に伴う降灰が周辺の森林や樹木に与えた影響に関しても,より長期にわたる観察や調査によって明らかにされるべきものと考えられるが,10年を超えるような長期にわたる調査結果は,噴出源にごく近い場所での森林や植生の回復に関するもの以外はこれまでに報告されていない(Tsuyuzaki 1989, 1996)。
 火山噴出物の降下・堆積が樹木や森林に及ぼす長期的な影響に関するこれまでの報告例は,火山の噴火という事象自体がまれにしか起こらないために決して多くない。樹木の肥大成長に及ぼす影響に関しては,アラスカのKatmai山やメキシコのParicutin山,あるいはアメリカ北西部のSt.Helens山周辺における調査結果があるにすぎない(Eggler 1967, Segura et al. 1995)。したがって,火山噴火によって周辺の森林や樹木に降灰などによる被害が発生した時には,その偶発的な機会をとらえて長期的影響についても調査を行い,知見を蓄積することが重要になるだろう。このような知見の蓄積は,たとえば年輪年代学の手法によって明らかにされる過去の樹木の成長経過を火山噴火と関連づけて解釈しようとする試み(Abrams et al. 2000)などの森林動態研究の分野に対しても有益な情報を提供することになるだろう。また,噴火によって被害を受けた森林の復旧対策などを検討する実際的な場面においては,被害を受けた樹木のその後の成長や材の経済的価値に関わる幹の形質への影響についての情報が不可欠となる。北海道には,有珠山をはじめ駒ヶ岳,樽前山,十勝岳など近年も活発に噴火活動を行っている火山が数多く存在する。今後これらの火山の噴火活動に伴って周辺の森林が降灰被害を受けることは当然想定されることであり,被害森林のその後の取り扱いを検討するに際して,1977年有珠山噴火のような過去の被害森林の推移に関する記録はきわめて貴重なものとなるであろう。
 本研究の目的は,1977年有珠山噴火にともなう噴出物が10cm以上の厚さで堆積した地域において,噴出物の降下・堆積によって被害を受けたトドマツおよびカラマツの人工林,広葉樹二次林のその後約20年にわたる肥大成長経過と幹の異常形態の形成状況を明らかにし,噴火被害を受けた森林の取り扱いに対する情報を提供することである。
調査地と調査方法
調査地の概要
 この研究は,北海道南西部に位置する有珠山の周辺地域で行った(図−1)。調査地に近い伊達市における年平均気温は8.0℃,年降水量は1,030mmである(札幌管区気象台 1983)。幹の肥大成長に関する調査は,広葉樹二次林1カ所とトドマツおよびカラマツの人工林4カ所において行い,幹の形態に関する調査は人工林4カ所において行った。調査地の概要を表−1に示す。いずれの調査地も,有珠山の噴火口から北西および南東方向9q以内にあり,1977年噴火に伴う噴出物が10cm以上の厚さで堆積した林分である。これらの調査地は,噴火直後の1977年8〜9月に被害状況が調査・報告されている林分(林業試験場 1979),またはそれらに近接する類似の林分から選んだ。表−2に調査地およびその近傍の林分における1977年噴火直後の被害の概況を示す。調査地のうち東関内Aのカラマツ林では,被災後に林縁部の数本を残して伐採・改植されていたので,残されていた数本を調査対象とした。それ以外の5カ所の調査地では,噴火によって被害を受けた立木の伐採などは現在まで行われていないようである。
幹の肥大成長に関する調査
 幹の肥大成長を調べるためのコアの採取は,広葉樹二次林(泉)では1998年7月に,人工林(東関内A,大平,月浦)では1998年11月に行った。広葉樹二次林の調査地では,およそ0.1haの範囲で林冠に達しているミズナラ5本,オニグルミ4本,キハダ3本を調査木として選び,幹の地上約10cmの位置から成長錐を用いてコアを採取した。この際,コア採取位置としては根張りの影響のない位置を選んだ。調査木の胸高直径とコア採取部の直径を直径巻尺によって0.1cmの単位まで測定した。同様に,人工林の調査地においても,およそ0.1haの範囲から無作為に5本の調査木を選んでコアの採取と幹直径の測定を行った。ただし,前述したように,東関内Aのカラマツでは,改植後に林縁部に残置されていた個体の中から5本を無作為に選んで調査木とした。実験室に持ち帰ったコアを台木に固定してカッターで表面を平滑に切削した後,実体顕微鏡下で年輪幅を0.05mmの精度で測定した。
年輪幅の解析
 測定した各年の年輪幅データについては,同一の調査地から採取されたコア間でクロスデーティングを行い,年輪の欠如や偽年輪の有無のチェックを行った。その後,幹直径が太くなるにしたがって年輪幅が必然的に減少する影響を取り除き肥大成長量の年次間比較を可能にするために,次の@〜Cに示す手順によって年輪幅を標準化して年輪幅指数を求めた。すなわち,@それぞれの調査木について,コア採取位置の幹直径,樹皮厚および年輪幅の測定値を用いて各年次における幹の半径を推定した。A各年次の年輪幅(図−2A)をその推定幹半径で除して半径増加率の経年的推移を求めた(図−2B)。この半径増加率の推移は,立木の直径成長率の推移をほぼ表現したものと考えることができる。Bそれぞれの調査木について,半径増加率の推移を指数関数で回帰した(図−2B)。C半径増加率の実測値と回帰式による推定値との残差を,推定値に対する比率として表わしたものを年輪幅指数とした(図−2C)。
 上記の半径増加率を用いた年輪幅標準化の最大の目的は、前述したように、個体サイズや樹齢の増大にともなう年輪幅の減少の影響を取り除くことであり、年輪幅の時系列データそのものに線形や非線型の関数式をあてはめる一般的な標準化の目的(Fritts 1976)と基本的に同様である。今回、半径増加率の回帰曲線からの変動によって標準化を行ったのは、調査木の樹齢が最大でも約50年であることから樹齢5年未満のごく初期の年輪も解析対象となり、年輪幅そのものに対する関数式のあてはまりがよくない試料があったためである。標準化された年輪幅指数を用いることによって、1林分内における複数試料の成長量の比較や平均化、あるいは年次間や噴火前後の相対的な成長量の比較が可能になると考えられる。
幹の形態に関する調査
 人工林(東関内A,東関内B,大平,月浦)における幹の形態の調査は,1999年11月に行った。各調査地に0.0225〜0.0625haの方形の調査区を設定し,調査区内のすべての造林木について胸高直径を測定するとともに,幹に異常が生じている高さとその異常形態の種類を記録した。幹の異常形態の種類は,図−3に模式的に示したように,樹冠より下の位置で幹が2〜5本に分岐しているものを「多幹」,樹冠の上部で幹の主軸が2本以上に分岐しているものを「梢端部複梢」,幹の一部がクランク状または弓状に屈曲しているものを「屈曲」,ある高さの複数の枝が輪生枝状に発達しているものを「輪生枝状の太枝」と区分した。このうち,「屈曲」については,屈曲部位の上と下における幹主軸の水平方向のずれ幅を目測して記録した。
 これらの幹の異常形態が1977年噴火に伴う噴出物降下による幹の損傷の結果であることを確認するために,東関内Bのトドマツ林および月浦のカラマツ林において,異常形態のみられる造林木それぞれ3本について異常部位の上下から成長錐を用いてコアを採取し,年輪数を測定した。また噴火当年の1977年の年輪があった場合には,幹中心から1977年の年輪までの長さを測定し,この時点の幹直径を推定した。
 大平のカラマツ林では調査区内の全個体について,また他の調査地では調査区内の数本について,樹高を測高ポールによって測定した。
結果
幹の肥大成長
1.人工林
 人工林におけるトドマツとカラマツの肥大成長の推移を図−4に示す。噴火当年の1977年の成長には,いずれの調査地においても,それより前の期間の成長と比べて差がみとめられなかった。
 それに対して,噴火翌年の1978年の成長は,東関内A,大平および月浦のカラマツにおいて,1977年以前に比べて著しく低下した。東関内Aと大平におけるカラマツの1978年の年輪幅は,1977年以前の5年間における平均年輪幅のそれぞれ33%および26%であり,同じく年輪幅指数はそれぞれ−0.62および−0.77であった。月浦のカラマツにおいても噴火翌年の1978年に成長の低下がみられ,1978年の年輪幅はその前4年間の平均年輪幅の38%であり,年輪幅指数は−0.54であった。
 東関内A,大平および月浦におけるカラマツの成長量の低さは,1978年以降数年にわたって継続した。カラマツの年輪幅指数は,東関内Aでは1980年までの3年間は−0.6以下の低い値で推移し,大平においても同様に1980年までの3年間は−0.7以下の低い値が継続した。月浦のカラマツにおける成長の低下は東関内Aや大平に比べるとやや軽微であったが,年輪幅指数が1978〜1980年の3年間低いままで停滞する傾向は,上で述べた二つの調査地での傾向と同じであった。いずれの調査地においても,1981年以降成長が回復する傾向を示したが,年輪幅指数が正の値に転じたのは噴火から5〜8年経過した1982〜1985年であった。
 一方,東関内Aのトドマツにおける噴火翌年以降の肥大成長の推移は,上で述べた3調査地におけるカラマツとは異なる傾向を示した。まず1978年の年輪幅および年輪幅指数は,1977年以前の5年間の平均値と比べて差がなく,カラマツでみられたような噴火翌年の成長の低下はみとめられなかった。さらにそれ以降の期間についてもカラマツでみられたような著しい成長の低下はみられなかった。逆に,噴火の数年後から成長量が増加する傾向がみられ,1981年から1994年までの14年間は年輪幅指数が0.10〜0.57の高い値を連続して示した。この14年間および噴火直前の1964〜1977年の14年間について連続したデータのある4個体について,両期間の年輪幅指数の平均値を比較したところ,1964〜1977年の平均値は−0.07であったのに対して,1981〜1994年の平均値は0.35であった。これら二つの期間の違いを要因A,個体のちがいを要因Bとし,各期間内の複数の年における観測値をくり返しとする二元配置分散分析を行ったところ,年輪幅指数の平均値には両期間の間で有意な差がみとめられた(p<0.001)。
 噴火後のある期間に成長の良好な時期が続く傾向は,東関内Aのカラマツにおいてもみられ,1987年から1994年までの8年間は年輪幅指数が0.27〜0.75の高い値を示した。この8年間の平均年輪幅指数は0.57であり,噴火直前の1970〜1977年の8年間における平均年輪幅指数0.14に比べて大きかった。この両期間の間での平均年輪幅指数の差は,上で述べた東関内Aのトドマツと同様の二元配置分散分析の結果,有意であった(p<0.001)。大平のカラマツでは,噴火以前に比べて成長が良好になる時期は噴火後の期間の中に検出されなかった。
2.広葉樹二次林
 天然林における広葉樹3樹種の肥大成長の推移を図−5に示す。噴火当年の1977年の成長は,それより前5年間の成長に比べてやや低下した。しかし,噴火前5年間の平均年輪幅に対する比率は,ミズナラで71%,オニグルミで76%,キハダで78%であり,噴火当年の肥大成長の低下は大きなものではなかった。
 それに対して,噴火翌年の1978年の成長は,いずれの樹種でも噴火前に比べて著しく低下した。1976年以前の5年間の平均年輪幅に対する1978年の年輪幅の比率は,ミズナラでは22%,オニグルミでは31%,キハダでは48%であった。1978年の年輪幅指数は,ミズナラでは−0.77,オニグルミでは−0.59,キハダでは−0.50であった。
 1978年に成長が低下した後の回復過程には樹種による違いがみられた。ミズナラでは,1978年以降次第に成長が回復する傾向はみられたものの,噴火3年後の1980年までは年輪幅指数が−0.3以下の低い成長で推移した。オニグルミでは,噴火翌年の成長低下そのものが小さかった1個体を除くと,噴火8年後の1985年まで年輪幅指数はほとんどの場合−0.2以下であった。一方,キハダは,噴火2年後の1979年には年輪幅指数−0.17まで回復した。
 ミズナラでは,噴火から5年後の1982年に年輪幅指数が正の値に転じ,さらに1984〜1992の9年間は年輪幅指数が0.10〜0.37の比較的高い値で推移した。この9年間の平均年輪幅指数は0.247であり,噴火直前の1968〜1976年の9年間における平均年輪幅指数0.002に比べて大きかった。この両期間の間での平均年輪幅指数の差は,前述した東関内Aのトドマツおよびカラマツの場合と同様の二元配置分散分析の結果,有意であった(p<0.001)。オニグルミ,キハダでは,噴火以前に比べて成長が良好になる時期は噴火後の期間の中に検出されなかった。
幹の形態
 人工林4カ所における胸高直径階別本数を幹の異常形態別に区分して図−6に示す。東関内Aのトドマツ林で観察された幹の異常形態は幹の屈曲のみであり,異常がみとめられた立木の本数率は26%であった(写真−1)。異常形態の観察された高さは7.3±1.6m(平均値±標準偏差;以下同様)であった。同様の幹の屈曲は,東関内Bのトドマツ人工林でも全体の17%の個体にみられたが(写真−2),屈曲の程度はきわめて軽微で,幹中心線のずれ幅はほとんどの場合3cm以内であった。一方,大平のカラマツ林では,小さな胸高直径階に属する個体において梢端部での複梢が観察された。異常形態のみられた高さは14.2±1.8mであり,これらの個体ではそれ以上の高さでの樹高成長が著しく阻害されているのが観察された(写真−3)。すなわち,幹に異常形態のみられない個体の平均樹高は21.0±1.6mであったのに対して,梢端部が複梢を呈する個体の平均樹高は15.4±2.1mと明らかに低かった(t検定;p<0.001)。また,月浦のカラマツ林では,全体の90%の個体で幹が2〜5本に分岐して多幹となっていた(写真−4)。異常形態のみられる高さは,4.3±1.4mであった。
 東関内Bのトドマツ林において,幹屈曲部の下20cmの位置で採取した成長錐コアの年輪数は24〜26であり,この位置の幹が1974〜1976年に形成されたものであることが確認された。噴火当年である1977年時点でのこの位置の幹直径は1.5〜3.0cmと推定された。屈曲部の上80cmの位置での年輪数は22〜23であり、噴火当年から翌年に形成されたことが確認された。また,月浦のカラマツ林において,幹が分岐して多幹となっている個体の幹分岐部の下20cmの位置における年輪数は23を超えており,1977年より前に形成された幹であることが確認された。1977年時点のこの位置の幹直径は8〜12cmと推定された。一方、幹分岐部の上20cmの位置における年輪数は20〜22であり,この位置の幹が噴火直後の1978〜1980年に形成されたことが確認された。
考察
 造林木の肥大成長に及ぼす降下火山噴出物の影響は,東関内Aのトドマツと東関内Aを含む3調査地におけるカラマツとの間で大きく異なった。東関内Aのトドマツでは噴火以降に成長の低下がみられなかったのに対して,3カ所の調査地におけるカラマツでは噴火翌年の1978年以降に成長が大きく減退した。とくに,東関内Aのトドマツとカラマツは相互に隣接した同林齢の林分であるにもかかわらず,肥大成長に及ぼす降下火山噴出物の影響が両樹種間で著しく異なっていたことは,火山噴出物の降下・堆積に対する両樹種の影響の受け易さの違いを反映したものと考えられる。トドマツとカラマツにおける降下火山噴出物の影響の受け易さの違いについては,噴火直後に行われた森林被害状況の調査時にすでに指摘されており,トドマツでは火山灰の付着による枝の下垂が被害の大半を占めて幹の折損や湾曲はほとんど発生しなかったのに対して,カラマツでは樹幹の湾曲,倒伏,折損が多発して甚大な被害を受けた林分が多かった(豊岡ほか 1978,森田ほか 1978,函館営林局計画課 1978,林業試験場 1979)。これらのことから,本研究でトドマツとカラマツの肥大成長にみられた降下火山噴出物の影響の違いは,主に樹幹や枝の物理的な傷害やそれに伴う葉量減少の程度の違いに起因するものと考えられる。
 噴火直後におけるトドマツの被害の多くは,前述したように火山灰の付着による枝の下垂であり,このような状況は火山灰が雨水を含んでモルタル状に枝葉に粘着したため1ヶ月以上継続した(林業試験場 1979,豊岡ほか 1979)。このようなトドマツ枝葉への火山灰の付着は,苗木を用いた室内実験では葉温上昇や光の遮断による光合成低下を引き起こすことから,造林木の成長への影響が懸念されていた(高橋・佐藤 1978)。事実,1980年5月18日に大噴火したSt. Helens山周辺のAbies amabilisでは,火山灰の付着によって最高葉温が約10℃も上昇し(Seymour et al. 1983),幼木および成木の噴火当年の肥大成長量は前年の約50%も低下したことが報告されている(Hinckley et al. 1984)。しかし,本研究における東関内Aのトドマツでは,噴火直後にはすべての個体で火山灰の付着による枝葉の下垂が観察されていたにもかかわらず,肥大成長の低下は噴火当年およびそれ以降にも明らかにはみとめられなかった。したがって,噴出源から比較的遠く火山噴出物の堆積厚が10cm程度であった東関内地区では,枝葉への火山灰付着がトドマツの物質生産に及ぼした影響はなかったかあるいはきわめて小さかったものと考えられる。ただし,噴火直後に有珠山周辺のトドマツの着葉量を調査した豊岡ほか(1979)は,噴出源に近く噴出物の堆積厚が30〜50cmに達する場所では,トドマツの枝当たりの着葉量が堆積厚2〜10cmの場所に比べて30〜50%少ないことを明らかにし,その着葉量の減少は粒径の比較的大きい噴出物の降下による衝撃に起因すると推測している。したがって,噴出源に近い地区においては,トドマツでも葉量の減少による成長量の低下が起こった可能性はある。
 噴火当年の肥大成長は,トドマツとカラマツではそれより前の期間の成長と比べて差がみとめられなかったのに対して,広葉樹二次林のミズナラ,オニグルミ,キハダではそれより前5年間の成長の71〜78%に低下した。この噴火当年の成長低下は,広葉樹二次林の調査地のある泉地区が噴出源から3.5kmと近く,比較的粗粒の噴出物が多量に降下したために,多くの個体で葉の褐変や落葉が発生して葉量が減少した(林業試験場 1979)こと,および噴火による葉量減少のあった8月7〜13日の時期にはこれらの樹種では当年の肥大成長が完了していなかったためと考えられる。たとえばミズナラの場合,8月10日前後までの肥大成長量がその当年の総肥大成長量に占める比率は,北海道中央部の低地では約76%(寺沢 1990),本調査地に比べるとやや冷涼な気候条件下にある岐阜県荘川村でも80%未満である(小見山ほか 1987)。一方,噴出物の降下による樹幹や枝の物理的な傷害が著しかったにもかかわらず,カラマツでは当年の肥大成長の低下がみられなかった。北海道中央部の低地におけるカラマツの場合,噴火のあった8月上旬には当年の肥大成長量の約90%がすでに完了し,8月下旬には肥大成長が休止する(薄井ほか 1988,江州ほか1989)ため,葉量減少による物質生産の低下があったとしても当年の肥大成長量には反映しなかったものと考えられる。
 東関内Aのトドマツとカラマツおよび泉におけるミズナラでは,噴火から数年以上経過してから,噴火以前に比べて肥大成長が良好になる時期がみとめられた。良好な成長を示す時期は8〜14年間にわたり,噴火から15年以上経った1990年代の前半まで継続した。この成長の好転が,火山噴出物の降下・堆積の影響によるものか,あるいは噴火とは関係のない単なる気象条件によるものかを検討するため,まず,上にあげた3調査地で共通して成長が良好であった1987〜1992年の6年間の5月から10月までの各月の平均気温と降水量を噴火前の1971〜1976年の6年間と比較した。気象データは,有珠山の南南東約8kmに位置する伊達における観測値(農林省・気象庁 1978,札幌管区気象台 1992)を用いた。その結果,5月の月平均気温が1987〜1992年の期間において38%低かった(t検定;P=0.042)ことを除くと,平均気温,降水量とも1971〜1976年と1987〜1992年の両期間の間に有意な差はみとめられなかった(t検定;p>0.05)。したがって,いくつかの調査地でみられた噴火後の期間における肥大成長の好転は,気象要因によるものとは考えにくく,火山噴出物の降下・堆積の影響とみなすほうが妥当であろう。
 火山噴火に伴う噴出物の降下・堆積後に樹木の成長が一時的に好転する現象は,これまでにいくつか報告されている。たとえば,1912年6月に噴火したアラスカのKatmai山近くのPicea glaucaや,1943年2月から数年にわたって噴火活動を行ったメキシコのParicutin山周辺のPinus類では,噴火数年後に肥大成長が好転する時期があったことが報告されている(Eggler 1967)。また,1980年5月のSt. Helens山の噴火後には,降灰のあった地域のAbies類やTsuga heterophyllaの樹高成長が促進されたことが報告されている(Zobel and Antos 1985)。一般に,火山噴出物の降下・堆積が樹木の肥大成長の好転に結びつく機構としては,地上部および地下部における環境変化が考えられる。まず,地上部の環境変化としては,火山噴出物の降下と樹冠への付着による立木の幹や枝の折損・枯死と,それに伴う調査木周辺の光環境の好転が考えられる。東関内Aのカラマツでは,今回の調査木として選定した数本の林縁木以外は噴火直後に伐採されており,調査木の周囲の光環境が噴火以前に比べて好転したことは容易に想像できる。しかし,泉の広葉樹二次林では,噴出物の降下によって多くの個体の樹冠が物理的損傷を受けたが,枯死木は少なく(林業試験場 1979),調査木周辺の光環境が噴火後にどれほど好転したかは明らかでない。また,東関内Aのトドマツにおいても,噴火による樹冠の損傷は軽微であり,肥大成長が14年間も良好に推移するような林冠の疎開が起こったとは考えにくい。一方,地下部の環境変化としては,火山噴出物の堆積による土壌の養分環境の変化が考えられる。1977年有珠山噴火に伴う噴出物は水溶性塩基類に富んでいたため(北海道農業試験場・北海道立中央農業試験場 1978,西本ほか 1978),地表に堆積した噴出物からの無機養分の供給によって土壌の可給態養分量が増加したことは十分考えられる。実際,東関内のトドマツ林においては,土壌中の置換性陽イオン(K+,Na+,Ca++,Mg++)の濃度合計は,噴火前の表層土壌層では3.5me/100gであったのに対して,噴出物の堆積した後の数年間は同じ層での濃度が約3倍に上昇した(佐藤ほか 2000)。また,1977年の噴出物を上積添加した火山灰土壌では窒素の無機化が3〜8%促進されたことが報告されている(北海道農業試験場・北海道立中央農業試験場 1978)。以上のことから,いくつかの調査地でみられた噴火後の肥大成長の一時的な好転に関しては,東関内Aのカラマツのように光環境の好転の影響が強いと考えられる調査地もあるが,そのほかの調査地については,前述した海外での報告(Eggler 1967, Zobel and Antos 1985)と同様に、新たな噴出物の堆積による土壌の可給態養分の増加の影響を否定できない。
 火山噴出物の降下によって生じたとみられる幹の異常形態は,噴火当時に9年生であった月浦のカラマツ造林木で顕著にみられた。カラマツ若齢林は,有珠山周辺に分布する各種の森林タイプのうちで火山噴出物降下による被害が最も著しかったタイプであり,樹幹の湾曲,倒伏,折損などの被害が多発した(豊岡ほか 1978,森田ほか 1978,函館営林局計画課 1978,林業試験場 1979)。月浦のカラマツ林でも表−2に示したように上記のような樹幹の物理的損傷が高い比率で発生し,噴火1年後には30%の個体が枯死していた(林業試験場 1979)。そのとき枯死を免れた個体も,22年を経過した現在,そのほとんどすべてが約4mの高さで幹が大きく分岐していた。分岐部の上下から採取した成長錐コアの解析によれば、噴火当年における分岐部直下の幹の推定直径は8〜12cmである一方、分岐部直上の幹は噴火後1〜2年に形成されていた。したがって、この林分でみられる幹の分岐は、樹冠に付着した火山噴出物の重みで幹が折損した後に,複数のシュートが立ち上がって形成されたものと考えられる。
 噴火当時29年生で噴出物降下による被害が軽微であった大平のカラマツ林では,当時若齢であった林分に比べると幹の異常形態の発生率は少なかった。しかし,注目すべきことは,噴火時の被害は軽微であったにもかかわらず,高さ約14mの梢端部付近で複梢を呈する個体は,せいぜいその後1m程度しか樹高が伸長していないことである。このような樹高成長の抑制は,噴出物の降下による梢端部の損傷と周囲の無被害木による被圧の結果と考えられる。
 噴火時に20年生および12年生であった東関内Aおよび東関内Bのトドマツ林では,噴火から22年を経過した現在,噴出物の降下による幹被害の痕跡はきわめて軽微であった。この周辺のトドマツ林における噴火直後の主な被害形態は噴出物の付着による枝葉や梢頭部の下垂であった(林業試験場 1979)。これらの林分で幹の屈曲がみられた約7mおよび4m前後の高さは,噴火当時の樹冠上部に相当する。東関内Bにおける成長錐による調査の結果でも、屈曲部直下における幹の年齢は噴火当年には2〜4年生、幹の直径は1.5〜3.0cmであった。したがって、現在みられる幹の屈曲は、下垂によって生じた幹先端部の曲がりが完全に回復しなかった結果か、あるいは梢端のシュートが折損または枯損した後に別のシュートが立ち上がって幹の主軸が交替した結果と考えられる。
 これまで述べてきたように,1977年有珠山噴火に伴う噴出物の降下・堆積が周辺の樹木の成長や形態に及ぼした長期的な影響は,噴出物の降下と樹冠への付着による樹体の物理的な損傷に起因するものがほとんどであった。これは,1977年の有珠山噴出物が,降下・堆積後に酸化して強酸性を呈する原因となる硫黄化合物に乏しかった(北海道農業試験場・北海道立中央農業試験場 1978)ことによると考えられる。硫黄化合物に富む噴出物の場合には,1959年2月の霧島山新燃岳の噴火に伴う噴出物のように,地表面に堆積後にpH3程度まで強酸性化し,噴火から約半年も経過してから樹木の枯死を引き起こすことがある(松本 1965)。
 樹体の物理的な損傷が,その後の成長や幹の形態に及ぼす影響は,樹種や樹齢によって異なるので,噴火によって被害を受けた森林の復旧対策を立てる場合には,この点を考慮する必要がある。カラマツ若齢林では樹幹が折損したり湾曲する被害が多いが,幹が折損した個体はその部分から多幹となって用材としての価値が著しく低下するので,仮に残置したとしても経済的な価値は期待できない。また弓状に大きく湾曲した立木は,放置した場合にはその後に枯死することが多いので(林業試験場 1979,津々美 1981),とくに除灰,幹起こしなどの作業を行わない場合には伐採対象とするほうがよい。ただし,若齢林分における被災後の早い時期の除灰と幹起こしは,被害林分の回復を図る上で有効とされているので(林業試験場 1979),可能な限りこのような復旧作業を行うべきであろう。カラマツ壮齢林の場合では,樹幹の低い位置から折損したり湾曲した個体は,形質や材質的な価値が期待できないので伐採の対象としたほうがよいだろう。また,梢端部が損傷したカラマツは,被害は軽微であっても複梢となる可能性が高く,さらに周辺個体による被圧と相まって成長が減退する可能性があるので,やはり伐採の対象とするのがよいと考えられる。トドマツ人工林では,あらゆる林齢の林分で噴出物の付着による枝葉や梢端部の下垂が多くみられたが,噴出物の降下の衝撃による着葉量の減少がないかぎり,火山灰付着が成長に及ぼす影響は大きくないようである。樹幹上部のシュートが損傷を受けたトドマツはその部分で幹が屈曲することが多いようであるが,屈曲の程度はさほど大きくない場合が多いので,次の間伐時に伐残の判断をする程度でよいかもしれない。広葉樹の場合,噴出物の降下によって枝葉の損傷を受けた個体は,葉量の減少によって数年間は成長が減退する可能性があるが,30cm以上の厚さで噴出物が堆積した場所でもほとんど枯損は発生していない(林業試験場 1979)。したがって,噴出源に近く壊滅的な被害を受けた場所での治山対策を除けば,多くの場合とくに復旧対策は必要ないと考えられる。
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